サイカチの木

みなさん「サイカチの木」をご存知でしょうか?
11月7日(土)午後から淨教寺のご門徒である昆虫・生物・自然博士である谷 幸三先生と一緒に奈良公園の自然についてお話しをいただきながら、散策いたしました。
参加者は約30名。最初に境内のソテツ・イチョウ・メタセコイア・多羅葉樹・しだれ桜についてお話を聞いて、奈良公園に出発しました。途中、猿沢の池で亀や青鷺(あおさぎ)のこと、興福寺境内ではアメリカハナミズキ・ナンキンハゼの話や紅葉の仕組みを教わりました。
また奈良公園には1200頭の鹿がいて毎日公園の芝を食べてくれることによって奈良市が芝刈りをする必要がないこと、それによって経費が節減できていること、また、食べたら糞が出るが、それも昆虫のフンコロガシが分解して土にかえしてくれるので、素晴らしいエコロジーの生態系が保たれている稀なる公園であることをお話し下さいました。五重塔の横では松とイロハモミジのお話を聞き、国立博物館南側の広場に着きました。小川が流れ湿った所にはイワヒメワラビやシダ、血止め草など鹿の食べない草の説明もありました。また、土を掘り返したようなところがあり、それは「ぬた場」と呼ばれるところで、オスの鹿がおしっこをして寝っ転がり、体に匂いを付けて、メスを引きつけたり、身体に付いたノミを殺したりするための場所であることを教えていただきました。

そこから少し東に進んで国立博物館旧館の南側に「サイカチの木」がありました。最初は何ともないそこらにある木と一緒かなと思って聞いていますと、棘(とげ)があるとのこと。よく見ると、本当に樹肌一面に鋭い穂先で刀が取り付けてあるのかと見間違うような棘がある木でした。サイカチの木に付く実はソラマメみたいな形であり、中に細かい実が入っているようで、振るとカラカラと音がして、子どもたちに大人気でした。
私は、その木を見て、七高僧の第六番目の源信和尚が書かれた『往生要集』の中の地獄の様子を細かく示している中、「刀葉林」という地獄があるということを参加者みなさんにお知らせいたしました。(詳細裏に)
棘は、草食動物から身を守るためといわれ、小枝が退化変形した鋭い棘です。こういう木があることも初めて知りましたし、生きていくための手立てとして棘を鎧のようにして、身を守る防衛策としていることに感動しました。
まだまだ沢山の自然についてお話しいただきましたが、紙面の都合で割愛いたします。ぜひ次の機会には谷先生から、奈良の自然についてお話を聞かれて、新しい奈良の町の散策を楽しんでみてください。こんなにも多くの知られざる自然に囲まれていたのかという感激でいっぱいです。

*衆合地獄(しゅうごうじごく) 刀葉林(とうようりん)

『往生要集』より (意訳)

また、地獄の鬼が罪人を捕えて刀葉の林に置く。かの木の頂上を見ると、みめ麗しく、きらびやかに装った女がいる。罪人は、この女のいる事に気がついて、すぐさま木に登ると、木の葉は刀のように罪人の身体の肉を割き、次にその筋を割く。こうして身体のすべての場所をずたずたに切り裂いて、やっと木の上に登ることが出来て、かの女を求めると、もはやそこにはおらず地面に降りていて、媚をたたえ、欲情に満ちた眼差しで罪人を見上げながらこういう言葉を投げかける。「私はあなたを恋するあまりここに来ましたのよ。なぜ、今あなたは私のそばに来て下さいませんの。どうして私を抱いて下さらないの。」と。罪人は、この女を認めるが速いか、欲情と火は燃え上がり、女の所へと次第に、再び降りて行くと、刀葉は上向きになって剃刀のように鋭い。罪人は先程のように、身体のすべての部分を残すところなく切り裂かれて、やっと地上に降り立つと、かの女はまたもや木の頂上にいる。罪人はこれを見るとまた木を登っていく。こうして、無量百千億年の長い間、自分の心に欺かれてこの地獄の中で、このようにぐるぐるめぐり、このように焼かれるのである。これは邪まな欲情がその原因である。地獄の鬼が罪人を責め立て、次のような偈を説く。

他人の作った悪事のために  おまえが苦しみを受けるのではない
自分の作った業のために自分が受ける報いなのだ
世の人々はすべてこの通りである

人間世界の200年が夜摩天の一昼夜として、夜摩天の寿命は2,000年である。その夜摩天の寿命をこの衆合地獄の一昼夜として、この地獄の罪人の寿命は2,000年である。生き物を殺し、盗みをし、邪まな淫欲を犯した者がこの地獄に堕ちる。

ちなみに、地獄には①等(とう)活(かつ)地獄 ②黒縄(こくじょう)地獄 ③衆合(しゅうごう)地獄 ④叫喚(きょうかん)地獄 ⑤大叫喚(だいきょうかん)地獄 ⑥焦熱(しょうねつ)地獄 ⑦大焦熱(だいしょうねつ)地獄 ⑧無間(むけん)地獄の8種類があります。

等活地獄は、殺生の罪を犯したものが落ちます。
等活地獄とは字のごとく、「等しく活き返る」ということで、鬼に切り刻まれて、火に焼かれて骨の髄まで砕かれても、涼しい風が吹くとまた、もとどおりの人間の姿に戻って初めから責め苦にあうという事の繰り返しが刑期の間続くのだそうです。すなわちこの苦しみから逃れられないということです。
黒縄地獄の黒縄とは、大工さんが持っている墨つぼの糸のことで材木の上に直線を引く道具のことです。罪人の身体に直線を引いてのこぎりで切断するのだそうです。
衆合地獄とは、殺生や盗み、愛欲に狂って邪婬(じゃいん)の罪を犯したものが落ちるところです。
叫喚地獄とは、苦しみに耐え切れずに絶えず叫(さけ)び喚(わめ)く地獄という意味です。
大叫喚地獄とは、舌を抜かれ叫び声さえあげられない苦しみが待っているところです。
焦熱地獄とは、地獄の業火(ごうか)が燃え盛っているところです。
大焦熱地獄とは、もうひとつ大きな業火に焼かれ、罪人の泣き叫ぶ声を聞いて、悲しみと恐ろしさに気も狂わんばかりになるところです。
無間地獄の無間とは、「間が無い」ということでひっきりなしに休む暇なく次から次へと責め苦に苦しませられるということだそうです。

こんなにも恐ろしい地獄に落ちて、苦しみを受けることを何とも思わず、また、お浄土の無上の悟りの世界に往生することも考えず、むなしく月日を送り、うかうかと一日一日を過ごしてしまっています。このことを静かに深く考え今日ただいまより自分自身の信心決定(けつじょう)を目指して真剣にお釈迦様・親鸞(しんらん)聖人(しょうにん)の教えに帰依し、お聴聞(ちょうもん)を始めてください。

2009年12月01日 法話
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