仏教をなぜ聞くか

淨教寺住職  島田和麿

平成15年1月20日 定例法座新年初会 挨拶より

みなさま新年おめでとうございます。

早速ですが、私たちの体には、常に60兆もの細胞が働いているのです。寝ても覚めても、毛の細胞から、筋肉・骨といったいろいろな細胞が内部で活動してくれております。そのおかげで、生きさせていただいているのでございます。

それを健康に持っていくために、いろんな種類のお医者さんがおられます。皮膚科から、耳鼻咽喉科から内科・外科、たくさんございまして、必死になってお調べいただいております。

さて、この仏教は、み仏さまが私たちの心といのちを診察して下さっております。心といっても、心理学的な心だけではなくて、仏教の心というのは宇宙の心に似ております。物質も心なんですね。心というのは、私の心の中で動いているものだけを心と思っておりますけれども、この体も顔も心と結びついているものでございまして、責任を持たなければならないのでございます。顔にも眼差しにも心が出てくるわけでございます。心はその人の良い・悪いが顔に出てきます。お釈迦様は髪の毛一本でも、この人はどんな人かということがわかると、瑞剱先生は、おっしゃっておられました。体も心ですね。碁盤に石を置いただけでもこの人は、気の大きい人・慎重な人ということがわかるそうです。建築もそうですね。

仏教のみ教えは、み仏が私たちの心のどん底まで調べ上げて下さっています。そして、幸・不幸、いのちもご心配いただいています。そして、私たちが生きていくうえに大切な、善悪の問題。これ、科学ではむりですね。文学でも無理ですね。善とは?悪とは?いかなることか。善はいたしましょう。悪はなすことなかれ。ということを教えていただいています。

真理と非真理と、これはなかなか教育学者でもわかりません。美の問題も、最高の芸術は宗教芸術なんです。無我から生まれてくる芸術には至高のものがあります。そうしますと、仏さまは、私たちにもっとも大切な命の問題について、宇宙も含めた心の問題について、善悪の問題について、真理の問題、美の問題、それから自由とか平等とか平和とか、私たちが目標にすべき大事な問題について、完全に見極められまして、私たちに必死でお伝え下さっているのが仏さまでございます。皆さん、これを聞かなくてもいいということは無いですよ。宗教みたいなものは要らない。と、いう人がいますが、これでは、意味もわからずに生きているということになります。

宗教というのはそういう大切な意味を持っているのだということでございます。自分に対する義務として、他人に対してではなくて、自分自身にこのみ教えを聞いて、善・悪の問題、私とはいかなるものか?どうすれば本当の至福の世界にいたることが出来るのか?こういう道を正しく、哲学的にも科学的にも教えて下さっている仏教に、よくぞ遇わせていただいた、何ともったいないことか。本当に仰げば仰ぐほどすばらしい世界に導いていただけるのです。

耳が痛いかもしれませんが、心と体の本当のお医者様でありますみ仏さまは、私たちのことをご覧になられて、重病人と見ておられます。残念ながら、善人とか、賢いとかは見ておられないのです。さわり多い、おろかな衆生よ。お釈迦様のお智慧から見られると危ないのです。皆さん危ない時は、サイレン鳴らして救急車がきます。救急というのはお経の中のことばです。「救急の大悲」と申しまして、善導大師がおっしゃっております。救急車の言葉の始まりは、仏教であります。

重病人で、うかうか過ごしたらあかんぞ。そのために、ご心配いただいて、功徳を積めと言っても、私たちには無理でして、阿弥陀様のほうで、長い間お考えになり、兆載永劫という、ほとんど無限に近いご修行の功徳を積んで、それが、南無阿弥陀仏というみ名に込めて、「どうかこの南無阿弥陀仏を聞いておくれ」と、聞くところにゾロッと功徳を頂戴して、それを元手にして仏様の世界に往っておくれ。悟りの世界に導くぞ、護っておるぞ、心配するな、という呼び声を「南無阿弥陀仏」と与えてくださるのが、私たちの浄土真宗のみ教えでございます。

お釈迦様のなさることと、他の世界との相違を知って、仏教の意義を見つめていただきたいと思います。私の問題として聞かなければならない、自身への義務として、今年も聞法にこころがけていただきたいと思います。

聞きぬきますと、瑞剱先生のお歌のごとく、

「雲に入る 鳥見るたびに思うかな 願に乗じて 天翔◎ける日を」

「み仏と 袖をつらねて 勇ましく 生死の旅を いく楽しさは」

「勇ましく」・「願に乗じて 天翔ける日を」と、本当に生死を越えた世界に導かれます。このことはどこにも無いことで、親鸞聖人の世界です。私の仕事はこれからや。と、大往生を遂げられた稲垣瑞剱先生のことを思いながら新年を迎えさせていただいたことでございます。

2003年02月01日 法話
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