きく・菊・聴く・聞く

 

幾たびか お手間かかりし 菊の花

加賀の千代女の俳句と言われていましたが、句集を探しても見当たらないということで読み人知らずとして味わってみたいと思います。

写真のように美しい菊の花を奉納していただき、連日境内は花を楽しむ人々でにぎわいました。山門をくぐっていただくという仏縁を結んでいただきました。

菊つくりというのはなかなか手間のかかる作業らしいです。
大輪の菊を一本仕立て、三本仕立て、断崖仕立てなどの鉢に育てるまでには大変な苦労がかかるようです。
春先から、挿し芽をし、苗を育て、ある程度の大きさになったら、鉢に植え替える。
鉢を植え替える前には、土作り。川砂、腐葉土、赤玉土などを混ぜ、鶏糞堆肥などの肥料も入れる。そこに少し水を湿らし、2週間ほどなじませ、その後、鉢に。
鉢の下に網をしき、その上になじませた土を柔らかく敷いていくのです。
水やり、施肥、わき芽摘みなど、花を咲かせるまでには、こうしてかなりの時間と手間がかかるのです。

幾たびか お手間かかりし 菊の花

の俳句の中には、菊つくりの手間ひまにかけて、私たちの今の仏縁をいただくまでの手間ひまを込めて詠んでおられるのです。
「菊」は私たちが阿弥陀さまのご本願を「聞かせていただく」身にお育てをいただいた、その「聞く」に通じるものです。そして「花」はその聞かせていただくことによって阿弥陀さまのお慈悲に気付かせていただくことができたよろこび、すなわち「信心の花」を咲かせさせていただくことができたよろこびを表していると味わうことができます。

「きく」という漢字もいろいろありますが、代表的なものは3種類あります。「聞く」と「聴く」と「訊く」です。
『聞く』は、音・声を耳で感じとる。耳に感じて、知る。という意味で、「鳥の鳴き声を聞く」「話し声を聞く」「うわさを聞く」というように使われます。
『聴く』は、耳を傾け、注意して聞き取る。という意味で、「ラジオ講座を聴く」「講義を聴く」「名曲を聴く」というように使われます。
『訊く』は、たずねて、答えを求める。問う。相手に質問する。という意味で、「訊問(じんもん)する」というように使われます。

親鸞聖人が「教行信証」に書かれている「きく」は「聞」です。「聞即信」「聞というは、衆生仏願の生起本末を聞きて疑心あることなし。これを聞と言うなり」と示されます。

私たちの五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)のうち最初に身につく感覚は「聴覚」と言われています。お母さんのお腹にいる時からお母さんから呼びかけられている「声」を聴くとはなしに聞いて、生まれてからも「あなたのお母さんよ」と呼びかけられている声を聞いて育っていくのです。
物心ついて、こちらから真剣に物事を把握しようと耳を傾けて一生懸命に聴いていきます。
そして、学びを深め人生の幅が広がって行きます。しかし人生50年ないし100年の間に学び尽くすことは不可能です。
そして、いのちの最後のぎりぎりまで残る感覚も「聴覚」といわれています。

阿弥陀さまのお慈悲に出遇うこともよく似ています。
はるか昔から、阿弥陀さまに「南無阿弥陀仏」(あなたの真実の慈悲の親は阿弥陀であるよ。)と、呼び続けていただいたのであります。有る時、仏縁をいただいて「南無阿弥陀仏」とはいったいなんだろうと疑問に思った時に、こちらから仏法を聴く(求めていく)ご縁をいただくのです。その聴聞のご縁の中で、私の方が聴きに行っていたのではなかった。阿弥陀さまから呼びづめに呼ばれていたのだと(聞かされていたのであったと気付かされる)お慈悲の大きさを知らされるのです。
阿弥陀さまの「呼び声」は、耳に聞こえる聴覚だけでなく「こころ」の底の底まで、響いて下さる救いの響きなのです。

阿弥陀さまの大慈悲の世界(胸のうち)に抱かれていたのだと知らされたうたが、今月の法雷カレンダーのおうたでありましょう。

大願海(だいがんかい)のうちには 煩悩(ぼんのう)のなみこそなかりけれ
弘誓(ぐぜい)のふねにのりぬれば 大悲(だいひ)の風(かぜ)にまかせたり

また、そのご和讃のつぎには、

超世(ちょうせ)の悲願(ひがん)ききしより われらは生死(しょうじ)の凡夫(ぼんぶ)かは
有漏(うろ)の穢身(えしん)はかはらねど こころは浄土(じょうど)にあそぶなり

とよまれて、たとい身は、欲、いかり、そねみ、ねたみの身であっても、南無阿弥陀仏とお念仏尊ぶ世界に、お浄土の風がつねに到り届いて下さるという力強い味わいです。

ご家庭のお仏壇の前に、本堂のご尊前の前に座ってご法話をお聞きすることの出来るご縁の深さ、そして仏さまの教えを聞くことの大切さを菊の花から教えていただいたことでございます。
一年の締めくくりとして、この一年間何回ご家庭のお仏壇の前に座り、淨教寺の山門を何度くぐっていただいたでしょうか?本堂・庫裡での法座に何回ご参詣いただきましたでしょうか?振り返っていただき、来年からの一層のお聴聞をお待ちいたしております。

2016年12月01日 法話
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