自在の救い
お念仏申しお浄土へと先だっていかれた方々は、この世界にかえり来て、私たちをお念仏の教えに導いてくださっている。
親鸞聖人は仰せになる。安楽(あんらく)浄土(じょうど)にいたるひと
五濁(ごじょく)悪(あく)世(せ)にかえりては
釈迦牟(しゃかむ)尼仏(にぶつ)のごとくにて
利益(りやく)衆生(しゅじょう)はきはもなしお浄土で仏となった方は、大いなる慈悲の心をおこして、迷いのなかで苦しむすべてのものを救いたいとはたらき続ける。さまざまな縁を通して私たちを仏前に誘い、仏法聴聞を勧めてくださっている。そのはたらきは、釈尊が巧みに人々を教化されたように、自在であり限りがない。
私たちは、多くの先人たちの導きによって、同じようにお浄土への道を歩ませていただく。この道は、凡夫がお浄土で仏となり、自在の救いを行うことができる尊い道である。
(『拝読 浄土真宗のみ教え』 本願寺出版社より)
春の永代経が5月18日(金)から20日(日)まで、例年のごとく厳修されます。
永代経とは、今この私が、遇い難き、聞き難き仏法にご縁をいただくことができたのも今は亡き先人の方々のおかげであると感謝申し上げ、先人のご遺徳をお忍びする法要です。
そしてこの私自身が、しっかりと仏法聴聞させていただくことが、先人のご恩に報いさせていただく唯一の道です。
この尊い、仏法(お釈迦様の教え・親鸞聖人の教え)が永代に末永く続きますようにとの願いのもと、みなさまからのご懇念(志)をお預かりして仏法興隆のために境内の整備、各種行事の企画運営をいたしております。
期間中はぜひお参りいただき、勤行・お焼香をしていただいて、清岡隆文先生のご法話をお聴聞していただきたいと思います。
親鸞(しんらん)聖人(しょうにん)と解脱上人(げだつしょうにん)貞慶(じょうけい)
現在、奈良国立博物館で「解脱上人貞慶―鎌倉仏教の本流―」が5月27日までの予定で開催されています。
結論から言って、念仏弾圧、法然聖人・親鸞聖人流罪という承元(じょうげん)の法難(ほうなん)が引き起こされた「興福寺奏状(こうふくじそうじょう)」を執筆したのがこの解脱上人貞慶という人です。
解脱上人貞慶は興福寺で出家し、法相宗を極め、真言を学び、春日大社にも参詣し、多くの神仏に深い信仰をもっていました。その中で、戒律復興を掲げ仏教の原点に返ることに力を注ぎました。
時代背景は、平安末期から鎌倉期にかけての、源平の争乱、自然災害(地震・水害等)、飢饉など世の中は不安の中で混乱していました。
そんな中、念仏を称えることで、全ての人々が平等に救われると説いた法然聖人の教えは、旧仏教の側から見れば、自分達の教義を否定するものと受け止められ、念仏が新興階級の武士や農民、またこれまでの旧仏教の教義では救いの対象から漏れていた女性達に広く受け入れられ広まっていくことに脅威を感じました。旧仏教寺院は専修念仏の停止を朝廷や鎌倉幕府に訴えました。これが法然聖人らの弾圧を願い出た「興福寺奏状」です。
また、解脱上人貞慶の感化を受けた栂(とが)尾(のお)の明恵(みょうえ)上人は親鸞聖人と同じ年(1173)に生まれています。華厳宗を学ばれ、法然上人が80歳で亡くなった建暦二年(1212・40歳)に、『摧(さい)邪(じゃ)輪(りん)』を著して、法然上人の『選択集』を徹底的に批判しております。これらの「興福寺奏状」『摧邪輪』の批判がきっけとなり親鸞聖人は、のちに『教行信証』を著されて、専修念仏(『選択集』)の正当性、真実を顕らかにしていかれたのでありました。
そして『教行信証』最後には、『華厳経』を引用されて、
(意訳)
『華厳経』の偈に説かれている通りである。
「さまざまな行を修める菩薩を見て、善い心をおこしたり善くない心をおこしたりすることがあっても、菩薩はみな摂(おさ)め取って救うであろう」
と、自分たちに、弾圧を加えた人々も、必ず救われていくという、阿弥陀仏の大きな慈悲を示して締めくくられています。